初恋御曹司と失恋部下の、一夜から始まる甘い恋

「今日は来てくれてありがとう。それと、本当にごめんなさい。もう二度と迷惑をかけたりしないわ」

そう言うと、三条さんは店を出て行った。
これで彼女と会うことはないだろう。

支払いを済ませ、店のドアを開けた瞬間に三条さんが戻ってきた。

「これよかったら食べて。それじゃあ」

三条さんは私に紙袋を渡すと、駐車場に止まっていた車の後部座席に乗り込んだ。
運転席に乗っていた三十代後半ぐらいの男性が私に頭を下げたので、反射的に会釈する。
そして、ゆっくりと車が動き出した。

そういえば、あの運転手が駅での出来事以降、三条さんの様子が普段と違うことに気付いて『何かあったんですか?』と聞いてきたらしい。
それで、三条さんが人に怪我をさせてしまったと話したら謝罪に行った方がいいという彼の助言を受け、今日謝罪に来たと。

彼女のやることは突拍子もなくて周りの人も振り回されて大変だろう。
三条さんは幼い頃から親に甘やかされて育ってきた。
悪いことをした時、三条さんに正しいことを言ってくれる運転手は貴重な存在だと思う。

人格形成は遺伝だけじゃなく周りの環境とかも影響してくるといわれているので、私は本当に恵まれていたんだなと改めて感じた。

さっき三条さんから渡された紙袋は有名な洋菓子店の物だ。
中を見ると『お見舞い』と書かれた熨斗付きの大きな菓子箱が入っていた。
きっと、彼女なりの誠意なんだろう。
< 169 / 180 >

この作品をシェア

pagetop