初恋御曹司と失恋部下の、一夜から始まる甘い恋
嘘をつくぐらいなら約束なんてしないでほしかった。
辛い現実を突きつけられ、幼い頃に芽生えた恋心は粉々に砕け散った。
涙を流す私を芹くんが慰めながら『琴葉、泣かないで。……中学生になる琴葉に好きな男の存在は必要ないからね』と呟いたシスコン丸出しの言葉は私の耳には届かなかった―――。
「ずっと琴葉と話をしようと思っていたんだが、立場上、プライベートな話は出来ないうえに琴葉は俺のことなんて覚えていないと思ったから」
「それは私もです。久住部長は私のことなんて忘れていると思っていたから……」
「お互いに勇気がなくて踏み出せなかったんだな」
久住部長もそんな風に思っていたんだ。
もし、少しの勇気を出して『私のことを覚えていますか?』と聞けていたら何かが変わっていたのかな……。
「ところで前から聞きたかったんだけど、どうしてうちの会社に就職したんだ?芹に聞いても不貞腐れた顔でよく分からないと言っていたから。過保護な羽山家的には、琴葉にはHMYで働いてほしかったんじゃないのか?」
「そうですね。父親や芹くんたちにうちで働けばいいと言われました。でも、私は芹くんみたいに会社を継ぐわけじゃなかったし、どうしてもジョイントイで働きたかったんです」
女子大までなんとなく、親が決めたルートに沿って生きてきた。
でも、それでは駄目だとずっと思っていた。
一人暮らしをしたのも、自立した大人になりたかったからだ。