冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い
藤山のおぞましい提案に産毛が逆立つ。
達夫の話を要約すると、会社の資金調達のために娘を売るということ。そして選ばれたのが、香蓮だというのだ。
「私まだ二十歳だし、おじさんと結婚するなんて絶対にいや。まだまだ恋愛だってしたいわ」
愛理はミルクティー色の毛先を指にくるくると巻き付け、めんどうくさそうに言葉を吐いた。
「お姉ちゃん、どうせ会社と家の往復なんだから結婚相手が見つかってよかったじゃない」
「そんなっ……、私だって今は結婚なんて考えられないわ」
「そんなことはどうだっていいの!」
珍しく反抗した香蓮に、由梨枝がぴしゃりと言いのける。
「今まであんたが野垂れ死なないようにこの家に住まわせてあげただけ、感謝しなさい。恩はその身で返すの。あんたは飛鳥馬家のために藤山さまに買われるのよ」
「お母さん……」
「最後くらい私たちのために何かしたらどう? この役立たず」
由梨枝は手に持っていたサングラスを、容赦なく香蓮に投げつける。
床に落ちたサングラスを、香蓮はじっと見つめた。
由梨枝がこうなってしまえばもう成す術がないと、香蓮はこれまでの経験で知っている。
藤山とのこの縁談の話は〝相談〟ではなく〝決定事項〟なのだ。
血が繋がった父は香蓮に救いの手を差し伸べるわけでもなく、この状況を一刻も終えたいとばかりに腕組をしてじっと目をつむっている。
そして愛理はというと、すでにスマホを弄っており香蓮を見てはいなかった。
「わかりました。私のことはご自由になさってください」