冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い
香蓮は静かにそう告げて、三人の前から立ち去った。
自室に戻るために廊下を歩いていると、ぱたぱたと足音が聞こえてくる。
「あの。お気を確かに」
心配して追いかけてくれた月島に、香蓮は弱々しく笑いかける。
「私は平気よ。あなたも私に話しかけると何言われるかわからないでしょう」
「お嬢さま……」
「月島さんと離れるのが寂しいわ」
香蓮の素直な言葉に、月島は涙を呑む。
自室に戻った香蓮は夜闇に浮かぶベッドに沈んだ。
「あの三人に何か言ったところで、火に油を注ぐだけ……」
疲れ切った香蓮は、もう自分の意思を通す元気は残されていなかった。
いくら藤山がひどい男だとしても、この家で生活しながら『ASUMA』の社員として必死になるよりは耐えられる。
程度が違うだけで地獄には変わらない。そんなことを思いながら、香蓮はそっと目をつむった。
「結婚、か。信じられないわ」
いくら人生を諦めていた香蓮といえど、恋愛に憧れを抱いていたし、好きな人と添い遂げたかった。
記憶の中にずっと居座る初恋の相手を思い出し、胸が切なく締め付けられる。
「玲志くんは、もう結婚してるのかな……」