冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い
「話?」
一番に反応した達夫は、しかめっ面で香蓮を見上げる。
緊張で心臓が激しく動いている香蓮は大きく深呼吸して、三人を見渡した。
「はい。会社の経営状況に関してです。督促状が毎日自宅と会社を併せて十通ほど届いており、このままだと――」
「そんなことより、パパ。お姉ちゃんにあの話しなくちゃいけないでしょう?」
「え……?」
勇気を出した香蓮は愛理によって出鼻をくじかれる。
戸惑う香蓮に三人は笑顔で顔を見合わせた。
「そうだった、思い出してくれてありがとう愛理」
「ちょうど会社の経営について触れていましたし、いいタイミングですわね」
「えっと……いったい、どんな話でしょうか……?」
勝手に盛り上がる三人を見つめながら、香蓮は弱々しい声で尋ねる。
すると由梨枝がサングラスを外しながら、真っ赤なルージュで塗られた唇を引き上げた。
「香蓮、あなたの結婚相手を見つけてきたの。資産家の藤山さまよ……あなたも一度、顔を合わせたことがあると思うけれど」
「け、結婚? どうしていきなり……」
青天の霹靂で言葉を失う。
〝資産家の藤山〟という人物は、彼女の記憶に色濃く残されている。
たった一度だけパーティで顔を合わせた時、やけにいやらしい視線を送ってきてゾッとしたからだ。
すでに四十半ばの年齢で、家が太く金目当てに近寄ってくる女性はごまんといるようだが、それでも三度離婚している。
しかも全員、高圧的な態度と酒癖の悪さが理由で別れたと、愛理と由梨枝が噂していたのを偶然聞いたことがあった。
絶対に不幸の道しかない。
困惑する香蓮に、次は達夫が口を開く。
「うちの会社がヤバいってのを藤山さんに漏らしたらひどく心配してくれてね。融資する代わりに、娘のどちらかを妻に迎えたいとお願いされたんだよ」