冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い
飛鳥馬家にとって玲志の発言は絶対だ。
結納式は滞りなく進んでゆき、帰り際に香蓮だけここに残るように彼は言った。
愛理が恨めしそうな顔でこちらを見ているのに気づいたが、香蓮は見て見ぬふりをする。
ふたりきりになった客間に、すっかり笑顔を無くした玲志が彼女を見据えた。
彼女の前に差し出されたのは、シルバーのカードと茶封筒が一通。
『君が住むマンションのルームキー。それと封筒の中にマンションの住所が記載された紙、引っ越しに必要な書類がいくつか入っている。結婚式から一か月くらい前を目安に、九月中にはマンションで生活できるように手配してくれ』
『わ、分かりました』
業務報告のような淡々とした口調の玲志に、香蓮は三人の前で見せた〝以前のような玲志〟は作り物だと思い知る。
『あと……一緒に住むにあたり、俺の妻として役割をしっかり全うしてもらいたい』
一層低い声で告げられた香蓮は、息を吞む。
『跡取りになる子供は絶対に産むこと。SKMの夫人として恥じぬような行動を行うこと。……君を愛すことはできないが、やることをやってくれれば、生活は保障する』
香蓮は大きなショックを受け、眉ひとつ動かさない玲志を見つめた。
“自分は一生玲志に愛されることはない”――それは、彼女にとって最も耐えがたい事実だった。
『話は以上だ。俺は先に失礼するよ』