冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い
◆◆◆
「いけない。ぼーっとしちゃった。片付けないと」
数カ月前の記憶から現実に戻った香蓮は、目の前に広がるオーシャンビューに背を向け、先程荷物を運び込んだ自室に向かって歩き出す。
ふたりが住む部屋は、4LDKで、以前から玲志が客室をして使っていた部屋を香蓮の部屋として割り振られた。
それでもゆったりとした八畳で、ベッドと本棚と少しの収納があれば事足りる香蓮にとって、十分すぎる部屋だ。
「ふぅ……暑い……」
温暖化の九月はまだまだ夏。ある程度片付いた頃には、香蓮の体は汗まみれになっている。
バックに入れていた汗拭きシートで体を拭き、ショーケースの中から動きやすいゆったりとしたワンピースを取り出した。
しかし下着姿になってすぐに、香蓮の着替える手が止まる。
「今日は同居初日だし、変な服装はまずいよね……?」
玲志に夫人としてきちんと振舞えとお香を据えられているのだから、まずはこういった服装からも正していかなければならないだろう。
そう思い直した彼女は上品に見えるようなシフォン素材の白シャツに、ベビーピンクのロングスカートをセレクトする。
全身鏡に映る自分は年相応の女性に見えて、少し気分が明るくなった。
「メイクも少し直しておこうかな。あと髪も……」
ひとつ気になりだしたら、あれもこれもと気になってくる。
彼女は片付け終えたばかりの化粧道具を引っ張り出し、ベッドに腰を下ろして身なりを整え始めた。