冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い
玲志は言葉少なに告げると、彼女を残し、奥まった場所にある革製の黒いソファの上にどさっと腰を下ろした。
そのままネクタイを緩め、シャツのボタンをいくつか外した彼は、少し疲れた顔で息を吐く。
「食事、作ったのか?」
「は、はい。いるのかどうか分からなかったので一応。もし済ませていたら、私が食べるのでだいじょ……」
「頂く。用意してくれるか」
近寄りがたい雰囲気を崩さず必要以上にこちらを見ない玲志に、香蓮はてっきり食事はいらないと言われるのだと思っていたので、内心驚いた。
同時に、彼が自分の手料理を口にする時がこんなにも早くきて、途端に緊張してくる。
「お待たせしました。お口に合わなかったらすみません」
出会った時こそ、玲志に対して昔のように砕けて振舞えた場面があったが、今は絶対に許されないような緊張感がふたりの間に流れていた。
もちろん、香蓮は玲志に対して敬語を使い、呼び捨てなんて考えられない。
主人と雇用主、という言葉が一番しっくりくるなと、彼がこちらにやってくるのを目で追いかけながら香蓮は思った。
玲志はシャツにスラックス姿のまま、彼女が作った食事の前に腰を下ろし、さっそくスープに口をつける。
流れる重苦しい時間に耐え切れなくなった彼女は、玲志から離れキッチンに戻って皿を洗った。
食洗器に食器を入れれば一瞬で片付いてしまうので、なるべく時間を稼ぐために。
(玲志さん、黙々と食べてるな)
盗み見した彼は、口に合わないわけではないのか、食べるスピードは速い。
「ごちそうさま」