冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い
玲志の声に顔を上げた香蓮は、緊張しながらリビングに戻り、彼に出した皿を無意識に見る。
ステーキとサラダ、スープはすべて平らげていたが、ポテトサラダだけ九割ほど残っていた。
それを見た瞬間、香蓮はあることを察して表情が暗くなった。
香蓮の母の味付けであるあのポテトサラダは、幼き頃の玲志の大好物。週の半分以上は食べていたはずだ。
離れている間に好き嫌いが変わることもあるかもしれないが、早々大好物なんて変わらないだろう。
彼は飛鳥馬家の味を覚えており、あえて食べなかったのだと香蓮は思った。
「こうやって変に昔のことを小出しにされると居心地が悪い。金輪際やめてくれ」
彼の低い声に、意識を引き戻した香蓮はビクリと肩を揺らす。
玲志は立ち上がり、温度のない目で香蓮を見据えた。
「ハウスキーパーに食事も作らせる。君は何もしなくていい」
「な、何もしないって……私、仕事もやめてしまってすることが……」
狼狽える香蓮を横目に、玲志は通勤バッグから財布を取り出し、ブラックのカードを彼女に差し出した。
「これを好きに使って、習い事でもなんでもしてくれ。君には俺にふさわしい妻になってもらわないと困る」
「好きに使う……」