冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い
今まで家族の散財を身近に見てきた香蓮は、カードをなかなか手に取れない。
「どうした?」
「玲志さんが必死に稼いだお金を好きに遣うなんて、私にはできません……」
俯いて本音をこぼした香蓮に、玲志はハッと乾いた笑い声を浴びせた。
「しおらしいお嬢様気取りか? 飛鳥馬の娘のくせに」
「!」
玲志の冷たい言葉に、香蓮は恐る恐る顔を上げる。
「なんだっていいが、君には礼儀作法や語学を習得してもらわないと困るのはこの俺だ」
「玲志さん……」
「わかったなら、変なことはするな」
玲志は冷たく言い放つと、テーブルの上にブラックカードを置いてリビングを出た。
ひとりその場に取り残された香蓮は、玲志の皮肉めいた言葉を反芻する。
(やっぱり、玲志君に好いてもらうことは一生ないんだな)
本当の夫婦とはほど遠い、結婚生活。
覚悟して引っ越してきたのに、いざ生活が始まると思っていたよりも玲志への冷遇は香蓮の心にこたえた。
しかし彼女にとって玲志は、昔から大切な人に変わらない。
自分の家族が玲志にしてきたことを考えると、こんなのへでもないと思い直す。
彼が〝SKMの妻〟としてふさわしい女性になれというのなら、できる限り叶えてやりたい。
そう言い聞かせた香蓮は彼に言われた通り、翌日には英会話学校や礼儀作法の習い事を始めるために、動き出した。
「ふぅ……疲れたな」