冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い

 香蓮が丁度夕食を終え席を立ったタイミングで、玄関に低いどら声が響く。

 「旦那さま、少々お待ちください」

 月島は大急ぎでぱたぱたとスリッパの足音を立てながら、玄関へ走っていく。

 ピリッと張り詰めた緊張感が部屋に漂い、香蓮はごくりと息を飲んで背筋を伸ばした。

 (息が苦しい……)

 いくら疲弊していたとしても、ここ一週間は普段より断然平穏に過ごせていた。

 それは自分を疎ましいと思っている父親と、義理の母、義理の妹が自分の世界にいなかったからだ。

 「はぁー、すっごい疲れた! 月島さーん、今日の夜ご飯なにー?」

 大きな麦わら帽子を被り、派手な花柄ワンピースを着た香蓮の義理の妹――飛鳥馬愛理(あすまあいり)がリビングの扉を思い切り開ける。

 彼女の後に続いてショートボブカットにサングラスをした義理の母――飛鳥馬由梨枝(あすまゆりえ)が続いて入ってきた。

 「お、おかえり、お母さん。愛理ちゃん」

 ぎこちなく笑う香蓮の存在に気づいた愛理と由梨枝は、目をぱちくりと動かし、怪訝な顔でどすんっとソファに腰を下ろす。

 「ただいま、お姉ちゃん」

 「留守番。ご苦労さまだったわ」
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