冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い
香蓮はソファを陣取る彼女たちの傍に近寄るが、なんと話しかけていいのか分からない。
愛理も由梨枝も一切香蓮の顔を見ず、スマホで写真をチェックしている。
香蓮の位置からビーチを背景に水着姿の愛理と由梨枝が映っているのが見えた。
彼女たちの肌は一週間前よりも日に焼けており、海外仕様の胸元が開いたタンクトップのワンピースもサマになっている。
「おい邪魔だよ。そんなところで突っ立っているんじゃない」
背後から聞こえてた声に香蓮が横に動くと、すぐに香蓮の父親は彼女が立っていた場所に大きなスーツケースとショッピングバックを乱雑に置いた。
「やっぱり日本はハワイと違って湿気がすごいね。陰気くさい空気が本当に嫌になるよ」
アロハシャツにハットをかぶった香蓮の父――達夫は、由梨枝の横に腰かけながら笑っている。
「陰気臭いのは日本だからじゃないわ。くっらい女がここにいるからよ」
そう吐き捨てた由梨枝は、香蓮の顔を見てフンッと鼻で笑う。
ショックを受けている香蓮の耳に、続いてけらけらと高らかな笑い声が聞こえてきた。
「ママ、間違いないわ。根暗な女って部屋の空気を悪くするわよね~! ま、誰とは言わないけどさー」
愛理はつけまつげを指先で弄りながら、バックから取り出したコンパクトミラーでメイク崩れをチェックしている。
香蓮はぼんやりとその様子を見ていたが、愛理の横に置かれているショッキングピンクのバッグにふと意識を引かれた。
(あれ、愛理ちゃん……こんなバック、持ってたっけ?)
ハイブランドの大きなボストン型のバッグは、トイプードルのキーホルダーまでついている。
ブランドものにうとい香蓮でさえ、超高額な代物だと予想がつく。
香蓮の視線に気づいた愛理は、バッグをバッと胸に引き寄せた。
「何ジロジロ見てんのよっ、気持ち悪いなぁ! そんなにHUCCHIのバッグが羨ましいわけ?」