冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い
「そういうわけじゃ……」
「じゃあ何よ!? お姉ちゃんもパパに頼んだら?」
愛理の言葉に、香蓮はぐっと押し黙った。
(やっぱり、お父さんのクレジットからなんだ。全然余裕ないのに、どうして我慢させないの?)
愛理と由梨枝は家の状況など気にせずに散財している。
まだなんとかなると思っているのか、達夫も止める素振りがない。
由梨枝は達夫の初恋の相手で元交際相手だった。政略結婚した香蓮の母が生前のときから、達夫と由梨枝は不倫関係にあった。
そしてふたりの間にできた子が愛理で、いわば隠し子。
達夫は香蓮の母が生きている間、ふたりに日陰の生活を強いてきた負い目があるのか、由梨枝が正妻になり、愛理を戸籍に入れた途端、ふたりのわがままをなんでも聞き入れている。それが夫として父としての誠意だと勘違いしているのだ。
一方で母が亡くなり、ひとり残された香蓮は生きているだけで金がかかるお荷物な存在に成り下がった。
家ではゴミ同然の扱い。
幼き頃父に遊んでもらった記憶はほとんどないが、さすがにここまで露骨に毛嫌いはされていなかった。
母が亡くなり、家での居場所がなくなった香蓮は家出や命を絶つことを幾度となく考えたが、結局勇気が出ずに断念した。
社会人になれば自由になれるとは限らない。
祖父の遺言書などもあり、飛鳥馬家の面子を保つため香蓮は大学まで進学させてもらえたが、学生時代は財布を由梨枝に徹底的に管理され、アルバイトも禁止されていたため香蓮は自由がなかった。
『ASUMA』に入社する選択肢以外許されず、沈んでいく船を必死に一分でも一秒でも長らえることが自分の使命であると言い聞かせるしかなかった。
けれど自分の努力もむなしく、豪遊三昧の家族にほとほと呆れた香蓮はついに口を開いた。
「帰ってきてお疲れのところ申し訳ありませんが、今日は私からみなさんにお話があります……」