冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い
玲志は社長椅子に腰かけることなく、ふたりを残して早々に社長室から出ていった。
静まり返った部屋に、立花の笑い声が響く。
「社長はいつもあんな感じなんです。建設現場に立ち会ったり、社外の会議に出席することも多いから、社長室にいるのは夜だけなんです」
「そうなんですね」
玲志が昼は外で動き、夜は積み上げられた事務作業をこなしていると思うと、香蓮は胸が痛んだ。
今まで玲志が多忙なのは十分想像できていたが、その実態はぼんやりとしていたのだ。
だが実際、彼が働く場所に訪れこの洗練された雰囲気や抱えている従業員の数を見て、仕事量は半端なく多いのが安易に想像できる。
すると玲志を案じている香蓮に、立花は笑顔を向けた。
「ご結婚は当然まだまだ先だと思っていたんですよ。社長から一度も女性の影を感じたこともなかったし」
「そうなんですね」
香蓮が反応に困っていると、立花は我に返ったように小さく会釈した。
「私は社長が入社したときから存じ上げているのですが、本当に仕事一筋って感じで。こんな可愛らしい奥様と愛を育まれていたなんて、社内の者はみんな驚いていますよ。羨ましがる女の子も多いんじゃないかしら」