冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い

 ノクターンの中でもマイナーな曲だが、悲壮感をまとった幻想的なメロディはひっそりと心に寄り添い優しく包んでくれる。

 幼い頃、香蓮は玲志がなぜこのショパンの中でもこの曲が好きなのか分からなかった。

 でも今なら理解できる。

 母を亡くした後、父親ではなく他人の家に預けられ彼は孤独だったのだ。きっと心の傷をこのメロディで癒していたのだろう。

 香蓮が聴き入っていると、肩に乗っていた玲志の頭がかすかに動く。

 意識を彼に向けたそのとき、左手が大きな掌に包まれじんわりと温かくなった。

 「れ、玲志さん……?」

 突然彼に手を握られ、香蓮の体は緊張で硬直する。

 彼は香蓮の肩に頭を乗せ目をつむったままだったが、口元に笑みを浮かべていた。

 「……懐かしい。この曲、すごく好きだった」

 玲志の懐かしむような表情を見て、香蓮の目の奥が熱くなる。

 「香蓮。あのときは弾いてくれてありがとな」
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