冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い
「玲志、くん」
ふたりの記憶が交差したとき、思わず香蓮は彼の名を呼ぶ。
玲志はうっすらと目を開けると、彼女の大きな瞳を一瞬見つめ、そっと顔を傾けた。
「れい……」
「…………」
驚く香蓮の唇の端に淡いキスが落とした玲志は、再び姿勢を正し前を向く。
しかし手は硬く繋がれたままで、結局ふたりは演奏会が終わるまで熱を分かち合っていた。
香蓮にとって夢みたいな時間は過ぎてゆき、ふたりはマンションに戻って来た。
それぞれ自室に入ってしばらく経つというのに、香蓮の心臓は高まったままで、左手は彼に握られた感触が残っている。
「全然落ち着かない。どうしたらいいんだろう」
入浴を済ませ、あとは寝るだけだというのに落ち着かない香蓮は部屋の中をうろうろとしてしまう。
そしてふと、今日玲志に買ってもらったポストカードと便箋を思い出した。
せっかく彼に買ってもらった品を使うのはもったいないので、どこかに大切に保管したいと考える。
(絶対に無くしたくないし。あ、そうだ……)
香蓮は本棚に立てかけてあったアルバムに手を伸ばす。
玲志と再会するまで毎日開いていた、幼い自分と玲志が映ったものだ。