叶わない恋の秘めごと~堅物上司の好きな人~
◇◇◇
その週の土曜日。
「乙葉が洋服選びに付き合ってだなんて、珍しいね」
カランとグラスの中で氷が音を立てるのを眺めながら物珍しそうに言うのは、高校時代からの友人の竹内里穂《たけうちりほ》。
さっぱりとした物言いで、昔から優柔不断な私の相談や悩み事を親身になって聞いてくれるいわば親友。彼女は近くのクリニックで医療事務として働いていて、絶賛婚活中なのだとか。
「そんなに気合い入れて、何かあるの? あ、社員旅行とか?」
「ううん。そうじゃなくて、その……来週、好きな人と出かける予定で……」
もじもじと答えれば、里穂は「えぇー!」と大袈裟にのけ反った。静かなカフェに、里穂の叫びが反響し、慌てて口を押える。
「里穂、声大きいから」
「だってあの奥手の乙葉がデートって! 信じられない! 今まで彼氏もいたことないじゃん!」
まるで天然記念物みたいない言い方をされ、恥ずかしくなる。
誤魔化すようにコーヒーカップに口を付けると、里穂はそんな私にお構いなしに続けた。
「誰なの? その相手は。私の知ってる人? あ、会社の人とか?」
いきなり図星を突かれ、ぐうの根もでない。さすが恋多き女里穂だ。
「うん、会社の人。年上の建築士さんで、すごく素敵な人」
「うわ、乙葉顔が完全に恋する乙女じゃん。これはなんとしてもゲットしなきゃね。よーし、この里穂様に任せなさい」
目をキラキラとさせる里穂は、いつも自分のことのように、喜んだり怒ったりしてくれる。それは高校の時から変わらなくて、里穂がいてくれてよかったと改めて思う。同時に、勇気が湧いてきた。