叶わない恋の秘めごと~堅物上司の好きな人~


思わぬことに足を踏ん張れず、全体重をかけるようにそのまま後ろにすとんと倒れ込む。それと同時に、ドスの聞いた声が鼓膜を揺らした。

「うちの倉田が、何かご迷惑をおかけしてしまったでしょうか?」

し、新堂さん!? どうしてここに…?

彼に抱きしめられたまま、目を瞬かせる。しかも新堂さんは丁寧な言葉とは裏腹に、顔が怒りに満ちている。

眉は吊り上がり、目は鋭く尖っている。いつになく厳しい表情の彼に、こっちまで息を呑んだ。

「新堂さん……。その、彼女にもう一軒付き合ってもらおうかなって思って」

さっきまで饒舌だった松浦さんが、顔を引きつらせ必死に言い訳をしている。無理もないかもしれない。今の新堂さんは私も見たことがないくらい、殺気立っている。

「倉田と二人でですか? 女性と二人きりだと、婚約者の方に誤解されますよ?」

こ、婚約者? 松浦さん、特別な女性がいるんじゃない。それなのにこんな……。ますます男性というものがわからなくなる。 

「いやいや、変な意味でとらないでよ。あくまでも友達としてだよ」
「そうですか。それは失礼しました」
「あ、でも俺、用事があったんだった。また今度にしようかな」

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