乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
一杯だけごちそうになり、コケティッシュな笑顔に送られて店を出た。パーキングに着いて角さんが車のエンジンをかけてる間、外で煙草に火を点けた甲斐さんに、真があらためてお礼を言う。

「俺は居ただけで何もしてねぇよ」

紫煙を逃しながら、ふっと笑った仕草がほんと男前で見とれるしかない。もう自分で組を持っていいくらいなのに、仁兄の代理を務めて木崎組を立派に引き継いでくれてる。真が特別慕ってる理由がよくわかる。

「助かったよ辰兄。高津を()らねー自信、なかったからさ」

あーなんか今、ダンナがすっごい物騒な本音吐いた・・・。

「お嬢にちょっかいかけるなんざ、確かに小賢しいガキだがな。ぜいぜい(うま)く利用してやれ」

「これぐらいじゃワリに合わねーって」

「お前にしちゃ珍しく青臭いじゃねぇか」

からかい気味に甲斐さんにあやされた真は、バツが悪そうに鼻の頭を掻いた。素直で可愛い。・・・口に出したら、笑いながらお仕置きされるヤツだけど。

「榊も恩に着る必要はねぇぞ。高津が勝手に返したがった借りだ、デカい面してりゃいい」

「・・・っす」

「見送りは勘弁しろ。戻ったらCLOAKで全快祝いだ、酒が飲める体になるまで帰るなよ?」

退院してから榊はずっとノンアル。甲斐さん流の励ましを噛みしめてるようにも見えた。

二列目にあたしと真、三列目に甲斐さん、助手席に榊が乗り込んで、スモーク貼りのアルファードがパーキングから滑り出す。
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