乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
実家まで送ってもらった頃には日付はとっくに変わってた。車のテールランプが見えなくなるのを見届け、うちに間借りしたままの榊と玄関先で解散する。

「俊哉は事務所出禁な。温泉一泊旅行じゃねーんだから、準備が色々あんだろ」

「もう、さっさと寝て体調万全にしときなさいよ?」

「・・・おう」

「夕方、ユキ姉んトコに顔出すから忘れんなよ」

いつも通りの三人。大袈裟なことなんか言い合わなくたって通じてる、繋がってる。

あー・・・紗江になんて言おう、仲間外れにしたら一生恨まれるよねぇぇ・・・。どっちかで言ったらこっちのが重大。

悩ましく思いながら真と、哲っちゃんちに向かおうとして低い声に呼び止められる。

「お前らも見送りはいらねぇよ」

振り返れば、相変わらず愛想の乏しい男が真っ直ぐこっちを見てた。

「俺は必ず帰る」

「あたり前だろバーカ」
「あたりまえでしょ、馬鹿!」

夫婦でそろった。

「それまで誕生会と新婚旅行は延ばしてやるから、せっかちに帰ってくんなよ。ハンパに治ってねーとか、宮子に死ぬほど恨まれんじゃね?」

「あーうん、それは恨む、絶対。サイヤ人ぐらい頑丈になってくれなきゃね」

わざと軽口。だって信じてるからね。榊の背中を見えない掌でバンバン叩いた。

エールの代わりに。
いってらっしゃいの代わりに。

松葉杖の真に合わせてゆっくり歩き出しながら、息を吸い込むように上を仰いだ。雲がかかって薄い膜を張ったみたいな夜空だった。
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