乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
止まった彼が横目だけこっちに流したのを、あたしも床に足をつけて立つ。距離を置いたまま。

「助かりました。榊のために出来ることをさせてくれて」

「千也を人質に取られたから仕方なくだよ」

高津さんは皮肉めいて口角を上げてみせると、片手をひら、と振った。あたしも『アリガトウ』を言わなかった。

おあいこ、でいいかな。黙って見送り、なんだかやっと気持ちの糸が緩んだ。

「ミヤコちゃんはリクエストあるかナ」

千也さんにウィンクされて座り直せば、みんなの前にめいめい中身の違うグラスが置かれてる。

「じゃあ・・・ジンフィズで」

軽く返事が返って、手際よくシェイカーに注ぎ足してくバーテンダー。

「あの、千也さんがガイドって」

「行ったことあるから、あさってはオレも一緒。カレが落ち着くまで、しばらく向こうにいるかなぁ」

「いいんですか?」

「晶さんの頼みだからね」

千也さんにはいつも迷いがない。

「・・・榊をよろしくお願いします」

「ミヤコちゃんの頼みならね」

やんわりした笑みに肩から重しが減ったみたいな。会うのはこれで二度目だけど、でも千也さんじゃなかったら大事な親友を託せなかった。

高津さんがここまで心を許すひとだから?ふと思った。

あたしには千也さんの目を通して見えてたのかもしれない。相澤さんや真が知らない、メロスの高津晶が。
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