乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
朝になって、次の朝が来たら榊は日本を発つんだ。実感があるようでないような。

手に入れたのは『薬』だったのか『毒』だったのか、期待と希望と不安がごちゃ混ぜになってる。なんとなく月が見たかった。暗がりを照らしてる光が見たかった。なんとなく口をついて出た。

「・・・なんか天国と地獄を三往復ぐらいした感じだよねぇ」

「次、のこのこオレの前に出てきたら殺すけどな」

高津さんに死んでも礼は言わないって、うんざりした横顔に書いてある。

「今回は見逃してやるよ、・・・宮子」

あたしの名前を呼んだ時、トーンが二段下がった。あー、えーと。

「・・・やっぱり怒ってる?」

帰りもあたしの手をこれでもかってキツく握ったまま、一言もしゃべんなかった。

「北原千也をやたら信用してんのも気に喰わねーし、オマエがあの紙切れを高津に叩き返さなかったのも気に喰わねーよ」

思わず足が止まった。真は止まらなかった。体ひとつ分遅れて追いかける。

「・・・けど正解なんだろ。高津が持ってた手札(カード)を引きずり出せたのは宮子のおかげ」

地面を突いた松葉杖を軸に、ふいに真が向き直った。どっか困ったみたいな、はにかんだみたいな甘い目をして、片手広げて。

「おいで」
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