乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
報いてあげられないのを初めから承知で、それでも、あたしのために生きてくれる。こんなにも純粋に思ってくれる男がいる。『ありがとう』じゃ何万回言ったって足りない、もらった分の100分の1も返せてない。

そんなもん要らねぇよ。って仏頂面で突っ返すよね?この先もあんたとあたしは何ひとつ変わんないって、百も千も承知なんだよね…っ。

「あんたがくれるって言うなら・・・、勝手にもらうんだからね?」

「いいじゃねぇか俺も勝手で」

上から降ってくる声があんまり静かで。さよならを言われてるみたいで。心臓が痛んだ。頑張って強がった。

「・・・・・・こういうのは帰ってきてから言うもんでしょ」

「ほっとけ」

榊が笑った気がした。見上げようとしてきつく抱き竦められた。息を忘れるくらい。

「じゃあな」

「榊、・・・ッ」

温もりが離れた。黒い背中を追っかけそうになった。しゃがみ込んで泣いた。

いま言うなんてずるいよ。
なんで心を置いてくのよ。
あんたらしくないよ。

半分怒ってた。あとの半分はぐちゃぐちゃだった。

さびしい。かなしい。くるしい。ありがとう。ごめん。ありがとう。

「オレの女泣かせてくなんて俊哉のヤツ、帰ったら殴っていい?」

物騒なクセに優しい響きと掌が、ふいに頭に乗っかった。
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