乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
「起きたらいないからさ」

探しに来てくれたんだ。

「みーやこ」

ぽんぽん。あやすみたいに。

「ほら、オレので鼻水拭きな」

あたしはうずくまったまま声を詰まらせる。

「・・・・・・榊にね・・・」

「ん」

「ほれた女って・・・いわれた。・・・でね、いってらっしゃいを言うの、わすれちゃった・・・」

「そっか」

「・・・知ってたの・・・?」

真がさらっと流したのを、思ってなかったのはあたしの方で。濡れた顔を拭きもしないで持ち上げれば、髪に寝癖ついたアイドル顔がやんわり見つめてた。

「べつに言ったことねーけどさ。オレも、オマエに惚れてるぐらいの奴だから任せられんの」

もう一回頭をぽんぽんされて、ノロノロ立ち上がった。

「ナニ悩むことあんの。宮子を勝手に生きる理由にしてんのはオレと俊哉だろ?」

途方に暮れかけてた感傷を横から(さら)ってく真。あたしの手からするりと抜けてった何か。

「アイツが帰ってきたら『おかえり』でいーんだよ、オレもオマエも」

そしたらきっと榊は。ちょっと目を泳がせてぶっきら棒に『・・・おう』って。

そしたらきっと、あたしは遠慮なしに抱きついて言うの。『もう絶対どこにも行かせないんだからねっ』って。
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