乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
「いちばん大事なモンを預けてっただけなんだから、俊哉が返せって言うまで持っててやりな」

『置いて』ったんじゃなくて? 目から鱗が落ちた。ポロッて音まで聞こえた。

「・・・うん。ありがと」

涙の跡をぬぐってくれた指先に励まされる。榊からの預かりものを大事に(くる)んで仕舞うと、深呼吸。滲んでたセカイが鮮明になる。

真は短パンのまま、右足の引き攣れた古傷がのぞいてた。かまわないで探しにきたんだ。気持ちを入れ直す。

「黙って出てきてごめん。朝ご飯の支度するね」

ねぇ榊。あんたのことだから、あたし達が起き出す前に発つって決めてたでしょ?ほんとは哲っちゃんちの前まで来て、黙って頭下げてくつもりだったんでしょ?

今ごろ西沢さんか葛西さんが車出して、こっそり裏門から出てったんでしょ。実家に間借りしてた部屋を綺麗に片付けて、真っ直ぐ前だけ向いて、一度も振り返んないで。

「時差が1時間だってさ、日本にいるよーなもんじゃね?」

涼しそうに笑った真に釣られた。

「そうだねぇ」

来た道を並んで戻りながら、瞼の裏で榊の背中を見つめ続けてる。

刻みこんでる。

祈るように。



< 111 / 153 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop