乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
あたしが言えることじゃないけど約束してね。
自棄(ヤケ)で結婚なんかしないって。

「仁兄が幸せじゃないのは絶対イヤ。お見合いでもなんでも、ちゃんと好きになれる(ひと)を見つけてよ?」

「どうせなら俺を他の女に取られたくないぐらいは言え」

「そんなの思ってるけど、言いたくないから言わないっ」

つんと顔を背け、バーテンダーさんが作ってくれたミモザを勢いで飲み干すと、急に駄々っ子みたいな自分が恥ずかしくなってお手洗いに立つ。

あたしと仁兄は全然ベッタリな関係じゃないし、ブラコンて括りじゃないと思う。

だけど。結婚してもあたしに大甘であたしを一番大事にしてくれる、あたしの仁兄でいてよって思う。

結婚してお嫁さんが一番になったら、たぶんすっごく妬く。妹愛を卒業して、あたしの為じゃなく生きてほしいけど、やっぱり妬く。

頭を冷やしがてら母屋の方でお手洗いを済ませ、静まり返った廊下をひたひた歩いて。ふとガラス越しの夜空に足を止めた。雲ひとつない濃紺の晴天。ここから月は見えない。

榊がいないあいだも気が付けば空を見上げてた。離れてても同じ世界の空気を吸ってるんだって、実感できたから。ドラマみたいに、そうしたくなる気持ちが初めてわかった。

「帰ってきたのにクセになっちゃった」

独り言。

「勝手にウロついてんじゃねえよ。・・・真が心配するだろが」
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