乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
いずれ一ツ橋を継ぐのは仁兄だもん。お嫁さんもらって組の跡目を育てる責任があるのも、ちゃんとわかってるもん。

仁兄が好きで一緒になりたい(ひと)なら笑って祝福するもん。したくなくてもするもん、そこまで子供じゃないから!

「・・・そうだな。俺はべつに親父が見繕ってくる女でかまわないが」

・・・・・・・・・。は?

気乗りしない冷めた返答にこめかみが引き攣る。いま誰でもいいって言った?しかも自分で探す気ないって言った?

「仁兄」

振り向かせた眼鏡越しの視線に、今日イチ優しく満面で笑いかけて。

「仁兄は愛がない結婚なんてしないよねぇ?」

端正な表情が固まり、なんか言いかけたのを追い打ちかける。

「そんなマネしたら一生クチきかないけどねぇ?兄妹の縁、切るかもだけどねぇ?」

「・・・・・・惚れた腫れたは後からついてくるって話だ」

低く言って目を逸らした仁兄は、気まずそうにグラスを呷った。

「宮子お嬢、誤解させたかもしれねぇが、仁はわりと奥手だぞ?」

「黙ってろ」

ククッと喉の奥で笑いをくぐもらせた甲斐さんを、横目で()めつけた仁兄。ふたりに動じもしない一番下のクール男子、角さん。

「宮子も余計な心配するな。俺がお前に顔向けできない真似するか」

すっかりいつもの仁兄らしく、目を細めて上から言い切ってみせた。
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