乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
いきなり無愛想な声に脅されて振り返る。勝手にってここ、あたしの家!

「おトイレついでに酔い覚まししてただけ。榊まで抜けてくることないのに」

「俺も見回りついでだ」

「メインの主役はおとなしく祝われてなさいよぉ」

「ほっとけ」

馴染んだやり取りに口許が緩む。

ほんの四日前シンガポールから戻った、見慣れた黒スーツ姿の榊。なんなら日に焼けて前よりたくましく見えるくらい。

迎えに行った空港のゲートで思わず抱きついたとき、胸元に厚みがちゃんとあって涙が出た。あんな骨ばった榊じゃなくなってて、うれしくて大声で叫びたかった。

もちろん助けてくれた先生達や、色んな幸運に感謝してもし足りない。でも一番は、榊が筋金入りの頑固者だったこと。

言葉は通じなくても、まだずっと、もっと生きてやるって不屈の意地に根負けしたに決まってる、向こうの神様もきっと。

「あんたがそろわないと、やっぱり一ツ橋じゃないんだよねぇ。みんな思ってるよ、今日の顔みてたらわかる。愛されてるね榊」

「面倒かけたのは俺じゃねぇか」

「あのねぇ自己評価低すぎ!仁兄と真を見倣えば?」

小っちゃく笑う。

「お父さん達だって、あんたが帰ってくるの待ちかねてたんだから。そこは素直に自分を買いかぶんなさいよー」

「お前は」

目が合った。

「・・・お前が俺を買いかぶってりゃ十分だろ」
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