乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
「噂は聞ーてたから、ハジメマシテって気もしないけどな。オレは礼を言われる筋合いじゃないし、そっちは本人に言ってやって。組のことは渉さんが仕切ってるからノーコメント」

初対面なのに気さく。優しそうだけど、どっか掴みどころがないひと。極道らしくないようで空気に馴染んでるひと。馴染んでるけど、どっか線を引かれてる。ような。

受け答えながら彼はスマートな仕草で、上着の内ポケットから抜き取ったなめし革の小ぶりな巾着をあたしに差し出した。

「来る前にユリ姐に頼まれて『宮子ちゃんにプレゼント』」

「ユリ姐って・・・由里子さん?!」

シノブさんと相澤さんは義兄弟の盃を交わしてるし、ふたりが親密でも全然おかしくない。

お茶目な彼女がイタズラっぽくウィンクしてる顔が浮かぶ。こんなサプライズ嬉しすぎです、由里子さんてばぁぁ!

中身が想像できなくて、ドキドキしながらローズ色の巾着の口をほどく。目が釘付けになって溜息が漏れた。

「きれい・・・」

「オニキスね。最強のお守りだな」

ところどころ縞が入った艶やかな漆黒の丸石。シルバーの飾り金具で輪になったブレスレットが三つ。お揃いだけど、ひとつだけサイズが小さい。

「ユリ姐が探したんだから効き目はオレも保証する」

陽人さんがコケティッシュに笑んだ。由里子さんの話をするときは目の奥がゆるんで見えた。
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