乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
そこから昔話にも花が咲いた。陽人さんは、実は病気で亡くなったお兄さんがいて、何度か一緒に本家に連れてこられたんだそう。

うっすら残ってたらしい抱っこされた女の子の記憶は、哲っちゃんに懐きまくってるあたしだと思う。間違いなく。

常連でにぎわう行きつけの居酒屋で飲んでるみたいな。楽しいお酒で幸せだった。真がずっと笑ってた、本物の笑い顔で。見てるだけで幸せだった。

気が付けばいい時間で、引き上げるゲストを外で見送る。最後まで上機嫌だったシノブさんがおもむろに足を止め、顔だけ振り返って不敵に口角をあげた。

「なあサカキ。力と金がいくらあっても、運がなけりゃ極道は生き残れねぇのよ」

「・・・はい」

「だったら一番持ってるお前にしか、こいつらは頼めねぇな」  

あたしと真を男気たっぷりに見やったシノブさんへ、背筋を正して一礼した榊。

「じゃあなミヤコ、渉の分まで美味い酒のませてもらったぜ」

思わずじんと来た。

高津さんのことはひと言だって口にしなかったけど、相澤さんが何も言わないのはシノブさんが間に入ってくれたからに決まってる。涙が出そうになったのを満面の笑顔で返した。

「ユリ姐の店にも来てやって、オリエちゃんと一緒に」

シノブさんを追って陽人さんが涼しそうに片手を振った。

・・・あ。陽人さんて、紗江の陽斗(はると)くんと漢字一文字ちがい。

教えたら、ちょっぴり目を細めて笑ってくれる気がした。




< 136 / 153 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop