乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
『メシ食べたら、つきあって』
誕生会から一日明けた朝。羽根布団に包まった、寝ぼけ眼のアイドル顔に誘われた。
買い物ぐらいの気持ちで支度して玄関出ると、榊と西沢さんが車の前で出発待ち。停まってたのはミニバンじゃなく、予想外のキャンピングカーだった。
『遅くなったけど、仁兄とオレからの誕プレ』
聞き間違いかと思った。規格外すぎるプレゼントと真を三度見した。
『じゃあ行こっか』
『どこに??』
『新婚旅行』
極甘な企み顔に、呆気にとられた口を盗まれて。
『結婚記念日と誕生日は毎年、これで家族旅行な』
ついでみたいに言ったけど、ほんとのプレゼントはきっとこっちだった。
あたしは新婚旅行さえ連れてってくれたら、次を欲張るつもりはなかった。
榊はこういう男だから、自分がどうなるか頭で考える前に本能であたしを守ろうとする。
それを止められないから、巻き込みたくないから、カゴの中で哲っちゃんと仁兄に甘やかされる方を選ぶのに。
真に先回りされた。
あたしをそこから引っ張り出して、陽の当たる場所へ連れてこうとする。走る“家”でどこでも、どこまでも、未来もぜんぶ欲張るカオで笑ってる。
『ほら、おいで』
腕の中に閉じ込められた。
『オレがいるからなんだって平気だろ?』
頭の、もっと上で音がした。
天井が抜けたような、一気に空が広がったみたいな。
晴れ晴れした音だった。