乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
4ー3
「チヨちゃんたら、無理しなくてよかったのよ?」

心配そうなユキちゃんの微笑み。

「オレも言ったんだけど、どーしてもって聞かなくてさ」

心配が過ぎて過保護になってる真は、あたしに横目をすがめて溜息混じり。

「・・・我慢しやがったらすぐ帰るからな」

真の向こうからも無愛想な追い打ちがかかって、なんかものすごく自分が悪い気になってきた。

「ちょっと胃もたれっていうかぁ、ほら病気じゃないんだし?」

「病気じゃねーから余計に心配なの」

「だって、つわりがひどくなる前に亞莉栖に来たかったんだもん!ユキちゃんに会いたかったんだもんっ」

「アタシもうれしいわ、こうしてチヨちゃんの顔見て『おめでとう』が言えて」

清涼系のにっこりが返って、あたしの顔もふにゃっと緩む。

今日は店を開ける前にお邪魔してるから四人きり。カウンター席にいつもの座り順で、前にはホットレモンが置かれてる。薄ら湯気が立ちのぼってる。

「哲司さん喜んだでしょ。ジン君もああいう子だから口では言わないけど」

「もうみんなで大泣き!」

紅葉の見頃にひと足早かった二泊三日の温泉旅行から帰ってなんとなく、だるさと胃が重たい感じが続いた。

お宿のご飯が食べきれない量だったからそのせいかと思ってるうち、生理も遅れてることに気付いて。

瑤子ママに相談して検査薬を試したら陽性だった。次の日、朝イチで病院に連れてってもらった。

正真正銘ハネムーンベイビーだった。
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