乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
「臼井」

そんな静かな声を前にも聞いた。あたしは黙って顔を上げた。

日焼けた肌。短かめな髪をワックスで立ち上げたヘアスタイル。変わったのはそれぐらい、でも、見えない何かがびくともしない。

「俺は一ツ橋を出る」

出る?出るってなに?ネェ、ゼンゼン意味ガ分カンナイ。

「・・・待って、組を抜けるって言ってんの・・・?」

「そうじゃねぇよ。俺はお前のもんだろが」

「じゃあなんでっ?やっと帰ってきたのに、出てくって・・・!!」

スーツの上着を掴んで吠えた。榊は理由のないことは絶対言わない、だけど聞きたくない。

「俺にしか出来ねぇことがある。ここに戻ってもお前を守るには足りねぇ」

知ってる。この眼。真があたしに仁兄と結婚しろって、残酷な愛を告白したときと一緒。あたしを死ぬほど愛した男のと一緒。

ああ。こっちも難攻不落。一度決めた自分を曲げない、折れない。どんなにあたしを泣かせても。

「足りなくなんかないよ、もう十分だよ?あたしはもう、あんたがいてくれるだけでいいんだってば・・・!!」

ダメだ、こんな陳腐な言葉じゃ届かない、引き留めらんない。口惜し涙がこぼれる。

「・・・俺はお前の影になるだけだ、離れられるかよ。信じやがれ」
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