乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
ダウンライトの仄かな灯りにくすんだ金髪が、さらりと揺れる。三日前とは打って変わって、ダークなスーツに身を包んだ高津さんが温度のない笑みを傾ける。

お店の中は濃い淡いグレイが基調の世界。四角四面じゃなく、不規則な凹凸が奥行きを錯覚させる。床が本物の木で、絵や飾りはひとつもない。『ルナティック』を訳すと狂人、変人。どっかに意味が隠れてるのか、そうじゃないのか。

席はカウンターだけ、壁際はスタンディングバー形式。スツールに腰かけた彼のほかにお客はいない。流れるBGMはラテン系。そう言えば、このひとにお嬢さん呼ばわりされたのは初めてだった。

「・・・こんばんは。貸しを返してもらいに来ました」

「遅かったね。遊佐さんも元気そうで何より」

「おかげさまで。オレの女に二度も手ェ出して、生きて帰る気ねーの?アンタ」

「さあ、どうだったかな」

真を遊佐と呼んで、軽く肩をすくめた高津さん。

「そっちは“メテオ”の甲斐辰巳・・・さんだったかな、初めまして。折角だから一杯ごちそうしますよ」

「ああ、そうさせてもらおうか」

CLOAKの、じゃなくてメテオ。でも確かに聞き覚えがあった。

・・・あのとき高津さんが千也さんと引き換えに、真に譲るとか口にした気が。振り返ると甲斐さんが不敵に口角を上げたのが見えた。

奥から甲斐さん、高津さん、榊、あたし、真の順でカウンター席に横並びになる。角さんはいつの間にか姿がない。

「ゆっくりしてってネ、ミヤコちゃん」

カウンターの向こうから人懐こそうに甘く笑った、長身のバーテンダーは。千也さんだった。
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