乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
黒の襟付きベストもネクタイもよく似合ってた。ウエーブがかった茶髪をひとつに結わき、額の後れ髪が色気を漂わせる。夜の匂いはするのに、澱んだ気配はまるで無い(ひと)

真っ先にケガの具合が頭をよぎった。見えるところに傷らしい傷は見当たらない。でも全治一ヶ月。真の命令で西沢さんが彼にどんな制裁を加えたか、想像もつかない。

あれが手打ちって意味だから、真も高津さんも無かったように触れないし、笑える千也さんがなんて言えばいいか・・・いちばん強い。

思わず出かかった『大丈夫ですか』を、ぐっと飲み込んだ。言葉を迷って探して、ぎこちない作り笑いをやっと浮かべる。

「・・・奥さんと仲良くしてます?」

「今はちょっと会えないんだけどネ。オレはカナと、カミサマでも切れない赤い糸で結ばれてるから大丈夫」

歌うように答えた千也さんがハチミツに蕩けたみたいに幸せそうで。勝手に掬われた。顔も知らないカナさんも、やっぱり芯が強くてすっごく温かい人で、何があっても彼に負けないくらい幸せなハズ・・・って。

「じゃあ先に話を済ませようか宮子さん」

「そうですね」

榊を挟んで高津さんから投げられたサイを受け取る。堂々としなさい宮子。あとはもう出たとこ勝負・・・!

「前置きは無しにするよ。こっちの根回しは終わらせたから、君がここにサインすれば榊俊哉は助かる。それだけさ」
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