乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
事もなげに言って、カードを配るように茶封筒をカウンターに滑らせた彼。

あたしは無言で封を開け中身を取り出す。A4サイズの、上から下まで英文で埋まった紙が一枚。横からそれをさらった真が「・・・ふーん」と鼻を鳴らした。

「読めねー紙切れにサインしろって?」

「紙切れに見えるなら仕方ないな」

「・・・やっぱ殺しときゃよかったよ」

「つれないね」

高津さんが涼しそうに答えた途端、店中を凍らせる勢いで真の温度が急降下した。咄嗟に救難信号を送る。

「・・・甲斐さん!」

だって多分あたしじゃ止めらんない。お願い待ってよ、交渉決裂なんて早すぎる。

「急ぐなよ真。高津は志信(ノブ)兄の預かりには違いねぇぞ。つまらねぇ喧嘩売りゃどうなるか、お互い分別つかないガキでもねぇだろうが」

「べつに。相手にすんのが面倒なだけで、どーもしねーよ辰兄」

ひらひらの紙をこっちに突き返して真が冷笑した気配に、詰めてた息をか細く逃す。

さすが甲斐さん。通じた。導火線に火が移る前にちゃんと砂をかけてくれた。その間にあたしは考える、考える、考える。

「なあ高津、宮子お嬢に仕掛けたのはお前だ。ケツ拭く覚悟が出来てねぇなら下りろ。今なら見逃してやってもいいぞ?」

「下りるつもりは無いですよ。宮子さんはどうするの?俺は構わないけどね、君が決めることだから」
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