乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
「いいのかナ?」

歌うように返った。

「千也さんこそ。・・・いいんですか?また巻き込まれちゃいますよ」

「ミヤコちゃんはやっぱり優しいネ」

ユキちゃんに似てると思った。やんわりして、けど曖昧さが微塵もない笑い方が。

甘い響きで艶っぽくペンを差し出され、受け取ろうとした瞬間。横から阻まれて届かなかった指先。

振り向いて真をじっと見つめた。いつもよりハードに固めたプラチナアッシュの髪。スーツは着てないけど、隣りにいるのは一ツ橋組の臼井真。凍った眸の奥にマグマをたぎらせてた。

「・・・あのね」

「言ってみな、聞ーてやるよ」

上からの眼差しを無慈悲に(すが)め、捕まったままの手首がぐっと締め付けられても、あたしは落ち着いてた。

「ただの領収書って思ってる。貸しを返してもらったから、受け取りのサインするだけだよ」

「返したってどこに?オマエにだけ見えてんの?」

「根回し全部『終わらせた』・・・って高津さん言ったでしょ」

「それとこっちの中身はベツだろ」

「もし本気であたし達をハメるつもりだったら、千也さんはいないもん」

真が眉をひそめた。なんでそうなるのか、分かりたくもねーってカオ。不思議。さっきまで頭の中で頼りなく漂ってただけだったのに言葉にした途端、確信に変わった。

報復されるのが分かりきってて、高津さんが千也さんを道連れにするわけない。自分はどうでも、自分を見限らない人間に刃は向けない。誰よりそれを信じるから千也さんはここにいる。笑ってる。
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