乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
高津さんと千也さんのあいだに在るものを、他人が知った気になるのは傲慢だけど。思い出した。走れメロス。

途中で放り出しかけながら、最後の最後で唯一無二の親友を見捨てなかったメロスと、人身御供にされても親友を恨みもしないで信じようと決めたセリヌンティウス。

「・・・なので今から遠慮なく、千也さんは人質にもらいますね。今度は真を止めませんから。榊のためなら何人死んでも痛くも痒くもないです」

「なかなか卑怯な脅し文句だね、気に入ったよ」

分かってたみたいにメロスの高津さんが涼しげに答えた。こうなるよう、どっかあたしが仕向けられたみたいに。

「それでいい?真」

「・・・オレも痛くもかゆくもねーよ?女でも子供でも、何人殺しても」

そう言って千也さんに向かって薄く口角を上げてみせた横顔に、躊躇いのない殺意と非情さを隠しもしない。

命の取り合いを口にできる自分は、まぎれもなく極道の女なんだって思い知る。吐き気がする。

・・・ねぇ紗江。もしあたしの手が見えない血で汚れてても、『宮子は宮子でしょ!』って変わんないでいてくれる・・・?

「憶えておきな宮子。オマエが間違えてたら、北原の家族ごとこの世から消える。テメーのせいだって覚悟はついてんの?」

心臓が串刺しにされる。鉄の杭のような、鉛の矢のような、抜身の刃のような眼差しに。
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