乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
きつく掴まれた手首はびくともしない。背筋が震えるぐらい底冷えした眼に怯んだら、有無を言わせずそのままここから引き摺ってかれる。怒ってるんじゃない、あたしを心配して、あたしのため。

「・・・そうならないって信じてる」

堪えて、逸らさないで、息を吐くように。

真よりほんのちょっとだけ高津晶を知ってる。たぶん、大事なひとを守れなかった後悔に誰より傷ついたひと。だから。

「大丈夫、信じてよ」

「なんでいつも、ホイホイ穴ん中に飛び込んでくよーな真似すんのオマエ」

・・・耳が痛い。無鉄砲とか跡目の自覚が足んないとかモロモロ、いろいろ。

ぎこちなく目を伏せた途端、強く引っ張られ前のめりに、鼻の頭を噛み付かれる。

「いーよ好きにしな。旦那のオレがケツは全部持ってやるよ、文句ねーよな?」

暗黒オーラ全開、上からすぅっと目を細めたアイドル顔に凄みが増すと、どんどん仁兄と哲っちゃんに似てくる。返事する前に唇が塞がれ、代わりに“手錠”が外れた。

「ありがと真・・・!」

「遊佐さんも人が悪いな。どうせ藤代兄弟に裏は取らせたんだろ?キミが丸腰で宮子お嬢さんを連れてきはしないさ」

「さぁねぇ」

シニカルに嗤った真があたしにペンを握らせてサインを促す。

・・・なんか、高津さんが裏を取らせたとか言った気がするけど、なんか腑に落ちない気もしたけど、しっかり漢字でフルネームを書き込んだ。

「OK.千也,give him the ticket。明後日、飛んでもらうよシンガポールへ」
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