ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
「これって、ご自分の趣味で?」
キッチンでコーヒーの準備をする彼に尋ねる。
銀色で細長い円柱状のミルに豆をセットした彼は、レバーをくるくると回して豆を挽きながら頷いた。
「ああ。苑香のようにサンルームで色々育てるほどの余裕はないが、食卓にはなにかしら花を飾るようにしてる。たまには自分で花屋に行って、季節を感じたいしな」
……すごくわかる。敵情視察とか関係なしに、花屋って用がなくてもフラッと立ち寄りたくなる魅力があるんだよね。
贈り物やお祝いのためだけでなく、彼のように自分の部屋に飾って季節を楽しむ人が、もっと増えたらいいなと思う。
それは商売魂というより、純粋に花を愛する者としての願いだ。
「いつまでも立っていないで座って。コーヒーが入るまで、まだ少し時間がかかるから」
「はい。では……失礼して」
勧められたダイニングチェアに腰かけ、丁寧にドリップコーヒーを淹れる瀬戸山をなんとなく眺める。
カフェ店員というよりバリスタと言って差し支えないほど手慣れた動作でコーヒーを淹れる彼の姿は、悔しいけれどカッコいい。
普段から忙しいはずなのに、丁寧に花を飾ったり、豆からコーヒーを淹れる余裕があることにも感心した。
私も植物の世話はするけれど、食事は結構適当に済ませてしまうことも多いから……ライバルとはいえ、やっぱり彼の方が一枚上手のようだ。
勝手に敗北した気分になっていると、湯気の立つマグカップを彼がテーブルに置いてくれる。
私はずっと着けていたマスクを外し、バッグの中にしまった。