唯都くんは『運命の番』を溺愛したい

 上半身を私から放した男の目には、怒りの炎が燃えさかっていた。

 「くそっ」と眉を吊り上げ、怒りをぶつけるように何度も助手席のシートを殴っている。



 突然、怒りだした理由がわからない。

 怖い。

 逃げたい。

 今度は私が殴られそう。

 でも逃げることなんてできない。



 男は歯をガチガチならしながら、私のポニーテールを引っ張った。

 頭皮に走る激痛に顔をゆがめる私を、真上から怒鳴りつけてくる。



 「なぜだ! なぜもう甘い匂いがしなくなった?」



 え? なんのこと?



 「俺が可愛がってやってるのに! なぜだ! なぜフェロモンが消えた?」



 首を傾げ、私は言葉の意味を理解する。



 言われてみればだ。

 いつの間にか私の体から、熱っぽさが消えている。

 恐怖で体は震えているけれど、過呼吸のような肺の荒ぶりは静まった。

 さっきまでは自分がこの男の前で発情しないか心配なほど、ハァハァ言っていたのに。

< 292 / 369 >

この作品をシェア

pagetop