唯都くんは『運命の番』を溺愛したい


 突然、ピタりと音が消えた。

 クルマの揺れも収まった。

 静まりかえった車内には、未知の恐怖に震える私と男の呼吸音だけが響いている。



 ガンと、もう一度車が揺れた直後だった。

 男の背後。

 私の足元にある空いたドアの上部に、逆さになった人の顔が浮かんでいたのは。



 「ぎゃぁぁぁぁぁ!」



 車が真っ二つになりそうなほどの鋭い悲鳴を上げたのは、私だ。

 誰かが車の屋根に寝ころんでいるみたい。

 お化け? 吸血鬼? 殺人鬼?



 切れ長の目がぎょろり。

 鋭くこっちを見ている。



 背後の満月のせいで顔までは認識できない。

 全見えの真っ白な歯だけが、暗い車内に不気味に光っていて……

 

 「なんだ? 俺の後ろに誰かいるのか?」



 私の悲鳴に驚いた男がビクビクしながら振り返ったところで、また車体がオーバーに揺れた。

 ドア上部から伸びてきたのは、二本の腕。


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