唯都くんは『運命の番』を溺愛したい

 いったい、何が起きているの?

 今度は私が、車の外にひきずり出されちゃう?



 恐怖が背にまとわりついた状態のまま、まばたきをこらえていた時だった。

 宙を落下する男のお腹に、横から飛んできた細くて長い足が食い込んだのは。



 着地の衝撃を和らげるよう、地面を背中で回転する黒い影。

 忍者のように流れる身のこなしは、華麗で見とれてしまうほど。



 はるか遠くに蹴り飛ばされた男は、地面に激突。

 脂肪が蓄積した重い体は、一切動かない。

 頼りない月明りの下、死体のように転がっている。

 息をしているのか心配になるほど。



 あっ、私を売り飛ばそうとした悪人の心配なんかしている場合じゃない。

 次にあの人影が狙うのは、間違いなく私だ。



 きっとあの人影も、私を誘拐した男と同業者だ。

 だって私は飼育型オメガ。

 闇オークションで破格の値がつく。

 世界中に私を狙う悪人がうじゃうじゃいても、おかしくはない。



 今度はあの人影に抱きかかえられ、縛られたまま船に乗せられ、私は海外に売り飛ばされるんだ。

 いま奇跡的に逃げることができたとしても、死ぬまで狙われ続ける。

 私の大事な友達にも、危害を加えられてしまうかもしれない。

 それならいっそ、今ここで命を絶ってしまった方が……

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