君しか考えられない――御曹司は熱望した政略妻に最愛を貫く
 義母の都にとって、夫に隠し子がいたなど寝耳に水だっただろう。当然私を受け入れられるわけがなく、初めて顔を合せたときに『汚らわしい』と蔑むように言われた。

 一歳下の史佳も、当然ながら私を歓迎しなかった。
 多感な時期に突然腹違いの姉が現れて、その混乱は大きかっただろう。彼女は私を姉とは認めず、母親とともに常に見下してきた。

 そんな扱いが苦しくもあるけれど、彼女たちの戸惑いも理解できる。
 どんなに邪険にされても衣食住の保証はされるのだから、逆らおうとは思わない。やりきれない気持ちは、ひそかに唇をかみしめてやり過ごすしかなかった。

 実際のところは、父は家庭に無関心な人だった。
 私たちの関係など、まったく気にもかけない。間を取り持つどころか、家にいる方が稀というありさまだ。

 たまに在宅しているときには私を私室に呼び出し、お酒を注がせたり肩を揉ませたりする。そうしながら、母もいつもこうやって尽くしてくれたと聞かされた。

 顔を合せたばかりのこの人を、父親だなんて思えるはずがない。私を母と間違えているのではないかと、気持ち悪くて仕方がなかった。

 それでもここを追い出されたら私に行く当てはなく、我慢するしかない。

 結婚するのに少しでも良い条件になるようにと、大学まで通わせてもらった。その後は、父に言われるまま絢音屋に就職している。
 働きはじめるタイミングでひとり暮らしをしたいと申し出てみたものの、二十五歳になった今でも許されていない。

 父は、私に変な虫がつかないように実家暮らしを強要した。
 都や史佳は反対するかと思いきや、逆に賛成してこれまで通り尽くせと命じる。おそらく、私をストレスのはけ口にしたかったのだろう。
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