君しか考えられない――御曹司は熱望した政略妻に最愛を貫く
 あずきが捻挫してから、二カ月ほどが経った。ケガはもう癒えており、元気な姿にほっとする。
 街中は、すっかりクリスマス一色になっている。世話になっている動物病院の受付にも、小さなツリーが飾られていた。

「酒々井あずきちゃん、診察室へお入りください」

 診察台の上で獣医師にジャンプでじゃれつくあずきを、看護師が手早く保定する。

「今日は混合ワクチンの接種だな」

「はい。お願いします」

 来院の理由がケガや体調不良ではないため気は楽だ。
 健康チェックを終えた先生は、あずきの機嫌がいいうちに素早く処置を済ませた。

「がんばったな、あずき」

 先生に頭をなでられたあずきは、クンクンと甘えた声を出しながら小さな舌で先生の手をせわしなく舐めている。

「たしか、あずきは春頃に飼いはじめていたな」

 カルテを確認しながら先生が言う。

「はい、そうです」

「冬は要注意だぞ。チワワは熱が逃げやすい体質で寒がりでもあるから、室内の温度管理に気をつけてやってほしい。床がフローリングだと、ケガだけでなくて冷えの心配もある」

 チワワの飼い方は私も調べていた。今日はこの後、あずきのためにもう少し厚手の服を見に行く予定だと話すと、先生は満足そうにうなずいた。

「ありがとうございました」
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