君しか考えられない――御曹司は熱望した政略妻に最愛を貫く
 三崎さんとは、それから数カ月の間に二度ほど顔を合せる機会があった。場所はいつも動物病院だ。
 合わせたわけではないけれど、私たちはお互いに仕事のない週末のだいたい決まった時間に通院していた。通院理由は違うものの頻繁に通う必要があったため、会いやすい状況にあったのだろう。見かけたときは、どちらからともなく声をかける関係になっていた。

 初めて対面してから一年と八カ月ほど過ぎた頃、私たちは動物病院で数カ月ぶりに遭遇した。
 季節は梅雨真っただ中で、空一面に鈍色の雲が広がっている。

「――幸いにも手術が成功して、病は根治したんだ」

 間が空いたとはいえすっかり見知った仲となり、彼の私に対する口調はずいぶんと砕けている。

「本当によかったですね」

 自分のことのようにうれしくて、私の声も弾む。
 今日のネロは、どうやってもキャリーケースに入ってくれなかったらしい。彼の膝には、ネット状の袋に入れた黒猫を乗せられていた。

「よかったね、ネロちゃん」

 三崎さんの許可を得て人差し指を差し出すと、ネット越しに顔を擦りつけてきた。ネロは穏やかな子で、私が触れてもまったく嫌がらない。その甘えるようなしぐさに、つい表情が緩んでしまう。
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