君しか考えられない――御曹司は熱望した政略妻に最愛を貫く
 支払いを終えて、まっすぐに帰宅する。
 玄関を開けたところで、不機嫌な顔をした史佳に出くわした。

「ちょっと亜子! どこに行ってたのよ」

 彼女が私に対して喧嘩口調なのはいつも通りだ。

「あずきの様子がおかしくて、動物病院へ行ってきました。足を捻挫しているので、しばらく散歩は禁止だそうです。ケージに入れて過ごすように言われました」

「ふん。じゃあ、あんたがやっておいてよ」

「はい」

 彼女に任せれば、ケガにかまわず好き放題するかもしれない。だから私に預けてもらえた方が都合がいい。

「それより掃除は済んでるの? 夜に私の友達が来るんだから、ちゃんとしてよね」

 そういえば今夜は友人を自室に泊めて、明日の早朝にふたりでテーマパークへ遊びに行くと聞いていた。

「すみません」

 この家には、数人の使用人が通いで勤めている。
 しかし都から、私も家事を手伝うように言われている。彼女はお荷物でしかない私の面倒を見てやっているのだから当然だと言うが、世話になっているのは事実だから、従うことに不満はない。

「はあ」

 去っていく史佳の背を見つめながら、小さく息を吐き出した。
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