玉響の花雫    壱
沢山あったので箱を差し出すと、
そのまま筒井さんの指が私の顎を
捉えて顔を近づけてきた


『亮と何をしていて泣いたんだ?』


ドクン


そんなに泣いてないから
バレないと思っていたのに、
筒井さんに泣いたと分かったの?


あまりに近すぎるその距離に
耐えられなくて俯くと、
少しだけ筒井さんから体を離した


口の中に残る甘いチョコレートと、
胸が締め付けられる痛みが入り混じる


筒井さんの過去を聞いて、そばに居ても
いいか分からず泣いたなんて言えない。


適当なことを言ったとしても
筒井さんには見破られてしまうだろう‥


「‥‥悩みを相談してるうちに
 泣いてしまって、亮さんが私を
 励ましてくれました‥‥
 本当にただそれだけです。」


筒井さんに対して頑張れって
応援してくれたから嘘は言ってない。


『‥‥そうか‥それならいい。
 何かされたかと心配してた。』


筒井さん‥‥


泣いたことを叱られるのではないかと
不安になっていたから、安心して
体から力が抜けてしまう。


「ごめんなさい‥‥」


『いや‥‥お前がなんともないなら
 いい。』


「なんともないです。それにこんなに
 幸せな時間を過ごせて元気がない
 わけないですよ。それより一緒に
 食べませんか?」


暗闇の中で筒井さんに笑いかけると、
いただいたチョコレートをもう一つ
口の中に含んだ。


『せっかくだから貰おうかな‥』

「はい、どうぞ美味しい‥‥ンッ!」


先程のように筒井さんが私の顎をそっと
指で捉えると、あっという間に影が
落とされ唇が重なった。


‥‥な、何故‥‥?
どうして‥‥またキス‥されてるの?



チュッと離れる時に聞こえた音に
放心状態の私が驚いていると、やっぱり
その後に鼻を思いっきり摘まれた


「痛っ!!‥つ、筒井さん!!」


『フッ‥‥。さっき言っただろ?
 泣いたらまたするって。』


えっ!!?‥‥あ‥‥‥これって‥
亮さんの前で泣いた罰ってこと!?


鼻を摘んで押さえていると、
横から伸びてきて手がまた私の頭を
クシャっと撫でた


『あまり心配をさせるな‥‥』


「‥‥はい‥すみません。」


暗闇で良かった‥‥。
きっと今、私の顔は
茹蛸のように真っ赤だと思うから‥。


隣でタバコを吸いながら星空を
見上げる筒井さんと同じように
私ももう一度星空を見上げる


罰だとしても、好きな人と
素敵な星空の下でしたキスを
私は一生忘れることはないと思う


『明日の朝一緒に走るぞ。』


諦めようとしていた思いがもう一度今
動き出すと感じながら、星空の下で
大切な人に想いを願った。
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