俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う

 父親に心配をかけてしまう。
 職場にも報告しなければ……。
 彼に、何て言えばいいのだろうか。

 とりあえず、芙実に相談しよう。
 すべきことは決まってるけれど、まずは気持ちの整理をしたい。

**

「ごめん、急な残業が入って」
「ううん、大丈夫だよ」
「お腹空いたね。何か買って帰ろう」
「……うん」

 芙実の仕事が終わるのを会社近くのカフェで待っていた羽禾。
 脳に関する書籍を書店で買い、芙実を待っている間にそれを読んでいた。

「ものもらい?目が赤い気がするけど」
「……今日はコンタクトが合わないみたい」

 泣き腫らした目がまだ赤いらしい。
 もう5時間以上も経っているのに。

デパ地下でお惣菜を購入して、芙実のマンションへと向かった。

「今日はお月見日和だよ♪テラスで飲もうか!」
「……そうだね」

 こんな風に芙実と月見酒をするのも最後かもしれない。
 他愛ない日常が徐々に削られてゆく感覚に、羽禾の心は容赦なく抉られる。

 缶ビールで乾杯し、芙実の取り皿に筑前煮を取り分けていると。

「彼氏と喧嘩でもしたの?」
「え?」
「なんか、表情が暗いよ」
「……」

 小学校の頃からの付き合いだから、何でもお見通しなのだろう。
 羽禾は、グビっと一口ビールを喉に流し込み、深呼吸した。

「会社の健康診断で引っかかって、今日精密検査して来たの」
「精密検査?……眩暈とか頭痛とかのやつ?」
「……うん」
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