俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
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 高層階の窓から見える景色は、1年前と変わらない。
 
 薄暗い室内。
 シトラスグリーンの香り。
 
 初めて訪れた時と何一つ変わらないのに、1年前よりもさらに悪女に染まったように思えた。

 夜空を貫く青白いレイザー光線が羽禾の胸も貫いているかのようで。
 羽禾の瞳から幾つもの涙が零れ落ちる。


 瑛弦から貰った鍵でドバイの部屋に上がり、ベッドの上に1通の手紙とキーリングを置いた。
 
 瑛弦がレース後のパーティーに参加している間に、羽禾は深夜便で日本へと発つ。
 だから、2時間ほど前にインタビューした時に会ったのが、彼とは最後だった。

 もう会うことはない。
 会ったとしても、彼のことを憶えてないだろう。

『本気にならない男』
 彼の前から姿を消せば、きっと彼は元の彼に戻るだけ。

 今だって、彼が本気かどうかだなんて分からない。

『愛してる』『大好き』
 そんな告白めいたセリフを彼の口から一度も聞いたことがない。

 鍵を渡されたことは意外だったが、彼にしてみれば嫌になれば別の家を買えばいいだけ。
 物を与えるのと、心を与えるのとでは、温度が違う。

 分かってる。
 自分だけが熱を上げていることくらい。

 それでも幸せだった。
 彼を愛して、心が満たされる感覚を知れたのだから。
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